【連載】天体撮影のトリセツ【第六回】

星空撮影の基本 (2/3)

2017.10.01
トリセツ編集部/山口千宗
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露出時間・絞り・ISO感度の設定

星空の撮影の基本はマニュアル露出です。 露出時間、絞り、ISO感度のそれぞれを、自分で設定して撮影をします。

1.露出時間の基本は30秒

OLYMPUS EM-5 12mm(換算24mm) F3.5 ISO1600|
明るさ・周辺減光はレタッチで補正しています。
OLYMPUS EM-5 12mm(換算24mm) F3.5 ISO1600
明るさ・周辺減光はレタッチで補正しています。

露出時間の基本は30秒。大事なことなので2度いいます。
それはなぜか。
上の写真をごらんください。換算24mmの広角レンズで15秒、30秒、60秒で撮影したもの。
星は地球の自転とともに移動しているので、このくらいの短い時間でも動きが画像に現れてしまいます。

15秒だとほぼ点像ですが、60秒だと明らかに流れて写ってしまっていますよね。
星のシャープさを優先するなら15秒ですが、30秒ならなんとか許せる範囲です。

でも、逆に15秒ではノイズが目立ちます。
画質を上げるためには、できるだけ露出時間をかけたいのです。

露出はかけたい。でも星が流れないようにしたい。
露出時間はこのトレードオフで決まります。
初めての撮影の場合は、少々流れても星がよりしっかりと写る、長めの「30秒」をオススメします。

細かくいうと、星の流れ方は星の位置によっても変わるため、オリオン座のような「天の赤道」付近の星の場合、この作例の「はくちょう座」の1.4倍ほど流れてしまいます。
30秒での流れが気になる!という場合は、20秒や15秒にしてもかまいません。
慣れてくれば、30秒、20秒、15秒の3枚を撮影して、後で一番バランスのいいものを選ぶと良いでしょう。

2.絞りはF2.8まで絞る(それより暗ければ開放)

EOS5DMarkIII 24mmF1.4 ISO3200 30秒|
明るさはレタッチで同じになるように補正、周辺減光の補正はしていません。
EOS5DMarkIII 24mmF1.4 ISO3200 30秒
明るさはレタッチで同じになるように補正、周辺減光の補正はしていません。

絞り値は、開放ないしは少し絞るのが基本。
F2.8より明るいレンズはF2.8まで絞り、それよりも暗いレンズは開放で撮るのが良いでしょう。

なぜレンズを少し絞るのか?
それはレンズは少し絞った方が画質が良くなるから。

上の作例は、開放F1.4のレンズの絞りを、F2.8、F2.0、F1.4(開放)で撮ったもの。
絞りF1.4では、井戸の底から空を見上げたように、周辺にいくほど暗くなってしまっています(周辺減光)。
また、周辺部の星が羽根を開いたように流れてしまっています(収差)。
このように、レンズは少し絞った方がキレイに写るのですが、絞ってしまうと逆に暗くなってノイズが多くなってしまいます。

絞りは開けて明るくしたい。でも絞って画質を良くしたい。
ここもトレードオフです。天体撮影は悩みが多いのです^^
周辺減光はソフトで補正することもできるのですが、このレンズの場合はF2、できればF2.8くらいまで絞った方が良さそうです。
また、開放F値が3.5や4.5のような暗いレンズの場合、絞ってしまうとますます光量不足になるので、割り切って開放で撮った方がよい結果が得られます。

絞り値に対するレンズの性能は、製品によって大きな差があります。
慣れてくれば、これも何通りか撮ってみて、自分のレンズの最適な絞りがどのあたりなのかを比較してみることをオススメします。

3.空の明るさに合わせてISO感度を調節する

星空撮影のISO感度の基本はフルサイズデジカメでISO3200、それ以下のセンサーサイズでISO1600です。
ここから、空の条件に合わせてISO感度を調節することで、露出を合わせていきます。
レタッチ無しの作例で、露出の加減をみてみましょう。

左:長野県しらびそ高原、中:福岡県糸島市、右:福岡県福岡市
左:長野県しらびそ高原、中:福岡県糸島市、右:福岡県福岡市

●キレイな星空:中
天の川が肉眼で少しでも見える場所なら、ISO3200/F2.8/30秒の設定で、やや露出不足気味からやや露出オーバーくらいの範囲に収まるはずです。
この作例はやや街に近く明るめの星空で、露出的には1段から半段ほどオーバーです。

●マチナカの星空:右
天の川が見えないくらい街灯りが強い場所の場合は、露出オーバーにならないようにISO感度を下げていきます。
星空の撮影の場合はできるだけセンサーに当たる光を確保する意味で、露出時間を短くしたり絞りを絞ったりせず、ISO感度で調節する方が良い結果が得られます。
この作例が市街地の海岸。ISOを200まで下げてもまだ明るいので、露出を短めにしています。

●暗夜の星空:左
空の条件がものすごく良い場所の場合、かなり露出不足になります。特に、地上の風景は真っ暗。
この作例の場合、ISO3200では露出不足でもう2倍から4倍ほど露出したいのですが、赤道儀なしではこれ以上露出すると流れてしまいます。
でも、折角のそんなチャンスに出会えた場合には、絞りを少し開く・ISO感度を上げるなどを試してみましょう。
ただし、ISO感度はあまり上げすぎると画質が悪化してしまいますので、上げても最大感度の1段下くらいまでにとどめておくのが無難です。

おまけ・RAWで撮影する人向けの情報

「ISO感度を上げてみましょう」という話をしておいていきなり逆のことを言うのですが、「RAW形式」の画像を使う場合には、実はISO感度は無理に上げてもほとんど意味はありません。絞り値と露出時間が同じなら、ISOを上げても下げても、レタッチ後の最終画質はあまり変わりはないのです。

EOS5DMarkIII 24mmF2.8 15秒 ノイズ処理なし、camera raw現像 明るさ補正 ピクセル等倍トリミング
上の作例は、露出15秒、絞りF2.8で、ISO感度だけを変えて撮影し、raw現像時に露出補正したものです。
違いがわかりますか?私にはわかりません^^;;気持ち、ISO12800は荒れている気もしますが・・
EOS5DMarkIII 24mmF2.8 15秒 ノイズ処理なし、camera raw現像 明るさ補正 ピクセル等倍トリミング
上の作例は、露出15秒、絞りF2.8で、ISO感度だけを変えて撮影し、raw現像時に露出補正したものです。
違いがわかりますか?私にはわかりません^^;;気持ち、ISO12800は荒れている気もしますが・・

暗い被写体を撮影する天体の場合、センサーがとらえる光はもともと不足しています。
ISO感度を高くすると、カメラ側で増幅率が上がるだけ。現像ソフトで増幅するのと、本質的には違いはないのです。
ただし、カメラによっては、ISO感度を上げすぎると画像処理エンジンが無理な処理をしてしまって、画像を荒らす可能性はあります。
あくまで、この作例の範囲の話としてご理解下さい。

最大の難関、ピント合わせ
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山口千宗
【天文リフレクションズ/山口千宗】

日本唯一の?天文ファンのための全方位キュレーションサイト/その編集長。 天文ファン500万人化を目指して日々絶賛情報発信中。五感で感じる星空体験がモットー。天文宇宙検定2級。夢はベテルギウスの超新星爆発を見届けること。
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