35mmフィルム換算とは
前回はカメラ業界の慣習として「焦点距離」で画角を表現する、という話をしました。 焦点距離が短い=画角が広い=広角、焦点距離が長い=画角が狭い=望遠、という話です。 でもそれが有効だったのはフィルムカメラの時代。デジタルになるとそれでは都合が悪くなったのです。
なぜか。それは同じ焦点距離でもイメージセンサーの大きさが異なると、画角が大きく変わってしまうからです。 次の図を見てもらうと一目瞭然。 上の図は前回の広角時の例と同じ。下の図は小さなイメージセンサーの場合です。 同じ焦点距離でも、イメージセンサーサイズによって画角が変わることがわかりますね。
焦点距離が同じでも、イメージセンサーが小さいとより望遠になり、逆にイメージセンサーが大きいとより広角になるわけです。
フィルムカメラの時代、カメラやレンズを買う人は、その焦点距離を見てどのくらい広角か望遠かを判断していました。イメージセンサーに相当する「フィルム」のサイズが決まっていたからです。
でもデジタルカメラが登場したとき、そのイメージセンサーはフィルムに比べてずっと小さなものでした(技術やコストの問題で大きなセンサーを作るのが難しかったのです)。
たとえばデジカメ黎明期の1996年(20年以上前!)に登場したオリンパスのC-400Lというカメラが手元にあるので、これのレンズを見てみましょう。
よく見るとレンズの下に「5mm」と書いてあります。焦点距離5mmということです。
フィルムカメラの世界では5mmのレンズは広角過ぎて無理なレベルです。C-400Lは超広角カメラだったのか、というと、もちろん違います。
5mmのレンズですが、実際に撮影できる画角は、フィルムカメラの「焦点距離35mmのレンズ」に近いものでした。
イメージセンサーがすごく小さかったからです。
そこで採用されたのがもっともポピュラーだったフィルムサイズをベースにした「35mmフィルム換算」(あるいは35mm判換算)という考え方です。
そこで「もしイメージセンサーのサイズが35mmフィルムと同じだったと仮定」すると、何mmのレンズを使ったときと同じ画角で撮れますよ、という意味で「35mmフィルム換算」という言い方が主流になったのです。
先ほどのオリンパスのC-400Lの例ですと、レンズの実際の焦点距離(実焦点距離)は5mmだけど、35mmフィルムのカメラで撮ったときの「焦点距離35mmのレンズに相当する画角で撮れます」という意味で「35mmフィルム換算で35mm相当」というようになったのです。
この「35mmフィルム換算」という言い方は、デジタルカメラが主流になった今もずっと使われています。
次の写真はイメージセンサーが小さなコンパクトデジカメで撮ったもの。実焦点距離は35.7mmですが、35mmフィルム換算だと200mm相当の画角です。 200mm相当だと望遠レンズになるので、望遠っぽい写りになってます。
カタログのレンズスペックは35mmフィルム換算で見比べましょう
こちらは、2つのコンパクトデジカメの仕様表からレンズ部分を抜き出したものです。 ひとつめはキヤノンのIXY 210、ふたつめはパナソニックのDMC-TX1です。どちらも「10倍ズームレンズ」を搭載しています。
この焦点距離はレンズのどこかに必ず書いてあるので手元にデジカメがあったら見てみましょう。
この2つはどちらも、焦点距離の欄に「35mmフィルム(判)換算」の数値が入ってます。
・IXY 210は焦点距離が4.3mmから43mmの10倍ズームですが、35mmフィルム換算ですと24mmから240mmに相当します。
・DMC-TX1は焦点距離が9.1mmから91mmの10倍ズームですが35mmフィルム換算ですと25mmから250mmに相当します。
焦点距離は2倍以上異なるのに35mmフィルム換算での焦点距離はほぼ同じ。つまり画角はほぼ同じということですね。
違うのはイメージセンサーサイズ。
1型センサーのDMC-TX1に対して、IXY 210は1/2.3型というとても小さなセンサーを使っているので撮影範囲は同じでも実際の焦点距離はぐっと短くなるわけです。
スペック表の「35mmフィルム換算」をみると他の機種と比較しやすくなります。そこをチェックするクセをつけましょう。
- ・レンズは35mmフィルム換算の焦点距離で比較すべし。
- ・イメージセンサーが小さいほど実焦点距離も短くなる。
老舗のデジタル系フリーライター兼カメラマン。パソコン雑誌のライターだったが、今はカメラやスマホが中心、ときどき猫写真家になる。「iPhoneカメラ講座」「這いつくばって猫に近づけ」など連載中。近著は「東京古道探訪」。歴史散歩ガイドもやってます。