多様な価値観を認め合うことがマナーの原点
ここまでのお話は、赤ライトの件などまだ広く認識されていないものもありますが、だいたいの方が合意できる内容ではないかと思っています。ここから先は、そうでない話です。
人間の考え方や「価値観」は人それぞれです。
ある人はよいと思っているが、またある人はよくないと思っていることは普通にあります。それどころか、ある人は常識だと思っていることや、特に考えずに日常の延長としてやったことが、別の人にとっては「非常識」となることさえあります。
「星空ビーム照射」をめぐる問題
SNSでこういう写真をよく見かけますね。すばらしい星空の下、空に向けられたライト。どう思われますか?
「なんとなく、カッコイイ」「映えてる」「いいね」そう感じる人も多いことでしょう。事実、この手の写真は「ウケ」ます。
一方で、眉をひそめる人もいます。
「星空を撮りに来たのにライトで照らすのはやめて」「星空にライトを向けるなどもってのほか」「○○の一つ覚え」
この記事では、この手の写真の「作品性」や「やっていい悪い」については触れません。ただ、2つだけ事実を指摘したいと思います。
一つめは、この写真を「いい」と思う人も「悪い」と思う人も、両方がたしかに存在することです(その比率はよくわかりませんが)。
もう一つは、撮影フィールドで多くの人がこういうことをやりだすと、「自然のありのままを撮影したい」と考えている人たちの撮影機会を奪ってしまう、ということです。
こういう状況で必要なことは、考え方の違う人同士の価値観をまず認め合い、その上で両者が共存できる方法を考え実践することではないでしょうか。その結果生まれるものが「マナー」なのだと思います。
具体的には、多くの人が集まっている場所では、こういう行為はなるべく避け、人がいない場所でやること。現場で声を掛け合って「ライトを灯す時間」と「灯さない時間」を分け合う、などです。
なお、上の写真ではビームを「お絵かき」することで対処しました。実際には空にはライトを照らしていません。
どこにもありうる「マナーのグレーゾーン」
もう一つ例を。この写真は「霧に覆われた場所でライトを空に向けて照らした」ものです。星はほとんど見えていなかったのですが、写真の中にはいくつか写っています。
筆者はどちらかというと星空ビーム照射をよしとしない立場です。その一方で、暗闇に我が身が置かれライトを手にしたとき、何かを照らそう思うことは自然の欲求ではないかとも感じていました。
では「霧空」ならどうなんだろう?
「星空にはライトを照射しない」ことを是としてきた自分でしたが、これって、星空じゃないよね?と、ふと思い立って照らしてみました。でも、少しだけ星は見えています。
「星空にはライトを照射しない」という「マイルール」でしたが、「星空かどうかよくわからないもの」にはライトを照らしていいのやら、悪いものやら、自分でもわからなくなってきました。
この話はここまでですが、きっとこういう「グレーゾーン」は、マナーの世界のあちこちにあるような気がします。誰もが、別の人にとっての「マナー」を破っているかも知れないし、自分のマナーすら破っているかもしれない。
「マナー」というものは、そんなものかもしれません。マナーを破れというつもりはないのですが、マナーの奴隷やマナー警察になることは、あまり幸せなことではない気がします。
「とことん残念な人」は一定の割合で存在する
ずいぶんな綺麗事も書いてきましたが、現実的には一定のあきらめも必要です。
ルール・常識・マナーを、華麗に・斜め上に飛び越える「とことん残念な人」は世の中に一定数います。
また、「まともな人」同士であっても、何かの事情や勘違い、または思い込みによって「とことん残念な関係性」が生まれてしまうこともあります(人間関係の軋轢の多くはこれでしょう)。
人が多く集まる場所ほど、そういうことに遭遇する確率が高くなります。
そんな時にはどうするか。
こればかりは、筆者は「さっさと撤収して別の場所に移動する」「イヤなことは早く忘れる」以外、何のアイデアもありません。
せっかく日常の現実世界からはなれて星空の撮影にやってきたのに、イヤな思いをすることがあるとしたら、それはホントに残念なことです。深く同情の意を表します。
でも、お願いです。星空のことは嫌いにならないでください。できれば、星空を好きなあなた自身のことも、嫌いにならないでくださいね…。
知っておく・やっておくとよりよいこと
話は変わって。
暗い場所で、周囲に与える影響を最小にしつつ、写真を撮ること。そのためには、いくつか知っておくと役に立つこと、やっておくとよりよいことがあります。
最後にそれらを簡単にまとめておきましょう。
カメラの操作に習熟する
これは昼間の撮影でも同じなのですが、自分が使っているカメラの操作を一通りマスターしておくことはとても大事。本来ならサクサク操作できたことが、不慣れなために時間を要してしまうと、撮影のチャンスを失ってしまったり、余計なライトを灯すことになってしまいます。
星空撮影の経験がまだない・少ない方には「夜にカメラを使って実際に操作の練習してみる」ことをまずオススメします。街中で星があんまり(ほとんど)写らなくてもいいんです。部屋の灯りを消して自宅で壁を撮影するのでもいいと思います。
撮影モード、記録モード、AFモード、シャッター速度、絞り値、ISO感度の設定。ライブビューの表示と拡大してのピント合わせ。撮影画像の確認。セルフタイマーやノイズ低減などの星空撮影でよく使う設定。暗いところで操作してみると、何が簡単で何が面倒なのか、自分が何をよく理解していなかったのかが歴然とします。
暗闇で手探りで一連の操作ができるようになればベスト。習うより慣れろです。
操作方法がわからないときは「トリセツ」を参照してみましょう。
「カメラが発してしまう光」を最小にする
暗闇で邪魔になる「カメラが発する灯り」。内蔵ストロボの自動発光を切るのは当然として、それ以外にも「AF補助光」や「セルフタイマーの動作ランプ」など、意外と明るい光がカメラから発せられるものです。これらの設定はあらかじめOFFにしておきましょう。
また、液晶モニタの輝度も最小に設定しておきましょう(それでもまだ明るいくらいです)。カード書き込みのランプも機種によってはかなり明るく、気になることもあります。そんなときは黒いテープを貼って遮光するのも一手です。
とにかく、カメラが暗闇でどんな光を発するのかは、実際に使ってみればすぐにわかります。「夜に操作を練習する」際に、ひとつひとつチェックしておきましょう。
まとめ
ルール・常識・マナーの問題が、写真撮影の世界だけでなく、現代の社会で混沌としたいろいろな事象を引き起こしている昨今。
「これから星空の写真を撮ってみたい」と考えている方に、ぜひ伝えておきたいことを書いたつもりですが、ここに書ききれなかったこともいくつかあります。それらは今後機会をみて書いていきたいと思っています。
でも、筆者が一番が願っていることは、もっともっと根っこにあること。一人でも多くの人が、より星空の撮影を楽しんで、星空の下でしかできない体験ができることです。 家に帰って「またあの場所に行ってみたい」「次はあそこに行ってこんなことをしてみたい」と思えること。
そのために…ちょっとだけ考えて、ほんの少しだけ行動してみてください!
次回の内容はまだ未定ですが、いろいろ水面下で企画が進んでいます。楽しい幸せなカメラライフ、星空ライフのために…引き続きいろいろ書いていきますので、よろしくお願いします。
ハッシュタグ「#天体撮影のトリセツ」でのご質問も引き続き絶賛募集中です。
それでは次回をお楽しみに!
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日本唯一の?天文ファンのための全方位キュレーションサイト/その編集長。 天文ファン500万人化を目指して日々絶賛情報発信中。五感で感じる星空体験がモットー。天文宇宙検定2級。夢はベテルギウスの超新星爆発を見届けること。