【第二章】天体撮影のトリセツ【第三回】

ポータブル赤道儀の使い方 (3/3)

2018.03.25
トリセツ編集部/山口千宗

どのくらいの精度で極軸を合わせるべきか

露出時間が短い場合や焦点距離が短いレンズの場合は、極軸合わせの精度をあまり細かく気にする必要はありません。下の表は極軸の設置誤差によって星がどの程度流れるかをざっくりと試算したもの。

例えば、24mm広角レンズで2分露出したい場合、必要な精度は約5度。これなら、のぞき穴の中のどこかに北極星が入っていれば十分ですし、目測で北に向けるだけでもなんとかなる範囲でしょう。

「超概算」で試算

もっと長時間露出した場合や望遠レンズを使用する場合には、より正確に合わせる必要があります。のぞき穴方式で設置する場合は、中望遠レンズまでが限界と考えておくのが無難でしょう。

お使いになる機材や目的に応じて「極軸望遠鏡」などの必要なパーツを追加すればよいでしょう。

「追尾速度」を設定する

追尾速度

ポータブル赤道儀は、たいてい何通りかの追尾速度設定の機能を持っています。ポラリエの場合、写真のように「星」「月」「太陽」「1/2」の4通り。

基本は「恒星時(星)」追尾です。この設定は、地球が太陽の周りを回っていることも考慮した「23時間56分で1回転」するスピードです。

注意していただきたいのが、「北半球用」の設定にすること。「南半球用」の設定では赤道儀は逆に回転してしまいます。

ポラリエの場合は、電池ボックスの中に小さなスイッチがあり、それで「北半球」か「南半球」を設定します。 一般的に初期設定は北半球用になっていて特に意識しなくてもよいのですが、あれこれいじってうっかり逆回転になっていないか確認しておきましょう。

構図合わせは機材の干渉に注意

極軸を合わせて追尾速度を設定したら、後は撮るだけです。ポラリエには「星空雲台」というサブネームが付いていますが、まさにその感覚。ややこしいことはほとんどありません。

ただし・・・機材の干渉には要注意。

機材の干渉

ポラリエのような構造のポータブル赤道儀では、天頂付近から北(カシオペヤ座、北斗七星、はくちょう座など)を撮る場合、上の画像のように構図合わせが苦しくなったり、カメラと三脚が干渉して思った方向に向けられない場合があります。

機材の干渉

また、縦構図と横構図では大きく使い勝手が変わってしまいます。上の例のように背の低い自由雲台を使用した場合、縦構図にすると赤道儀本体とカメラボディが干渉してしまいます。この場合は、カメラ側に「L字プレート」を装着すれば解決できます。

お手軽さを重視したポータブル赤道儀の場合、このような構図合わせの不自由さが出てくるのはしかたありません。カメラやレンズの大きさ、ネジ穴の位置、雲台の形状などによってその「不自由さ」は千差万別。

いろいろとパーツを買い足せば解決するのですが、その先はだんだんマニアな領域=「沼」になります。

とにかく、まずは手持ち機材で撮りやすい・撮りにくい方角を知るべきでしょう。明るい昼間に自分でいろいろと試してみることを強くオススメします。いきなり暗闇で撮影しようとして思うようにいかないと、心が折れやすいので・・・。

アルカスイス互換

筆者の使用している「マニアな」使用例をご紹介しておきましょう。

Amazonなどで売っている「アルカスイス互換」のプレート・クランプ・パノラマ雲台を組み合わせています。この構成で追加費用は1万数千円というところでしょうか。メーカーの純正パーツよりは安上がりです。

こういったカスタマイズは、天文マニアよりもむしろカメラマニア・パノラマ撮影マニアの得意領域です。お好きな方はぜひチャレンジしてみてください。

1/2追尾モードで風景の流れを最小にする

共通データ Canon EOS 6D+TAMRON 15-30mm F2.8 F2.8 ISO3200 ビクセン「ポラリエ」使用
共通データ Canon EOS 6D+TAMRON 15-30mm F2.8 F2.8 ISO3200 ビクセン「ポラリエ」使用zoom

最後にひとつ。

赤道儀を使用して星の流れを止めると、逆に弊害になることがあります。それは、星と風景を一緒に撮影する「星景写真」の場合。星が流れない分、風景が流れてしまうのです。

上の作例をご覧ください。

左が「追尾なし」で60秒。星は流れていますが、風景は流れていません。中は「恒星時(星)追尾」で60秒。星は点になりましたが、風景が流れてしまいました。

そこで覚えておきたいのが「1/2恒星時モード」の活用。「1/2恒星時モード」とは、文字通り通常の半分の速度で星を追尾すること。たいていのポータブル赤道儀ではこの追尾速度設定が可能になっています。

右の作例はこの1/2恒星時モードで追尾したもの。星も風景も少し流れていますが、両者のバランスが良くなりました。1/2恒星時モードを使うと、30秒露出分の星の流れで、60秒まで露出できるのです。カメラの性能の限界近くを使用する星景写真ではこの「倍」の違いは大きなメリットになります。

注意したいのは、露出時間を延ばしすぎると、「星も風景も流れてしまう」こと。これでは元も子もありません。1/2恒星時モードを使用する場合は、「露出時間は固定撮影の限界の倍まで」にとどめなければなりません。


まとめ

いかがでしたか?

ポータブル赤道儀を使いこなせば、これまで撮影することができなかったより深い宇宙の姿を写し撮ることができ、星空撮影の世界がさらに広がります。デジタル一眼カメラを普通に使いこなせる人なら、じっくり取り組めばすぐに使えるようになるはず。

ぜひチャレンジしてみてください。

あまり深入りするのは「沼」が待ち受けているので、オススメはしませんが・・・。

あ、深入りしたければ、喜んでお手伝いしますよ^^:

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山口千宗
【天文リフレクションズ/山口千宗】

日本唯一の?天文ファンのための全方位キュレーションサイト/その編集長。 天文ファン500万人化を目指して日々絶賛情報発信中。五感で感じる星空体験がモットー。天文宇宙検定2級。夢はベテルギウスの超新星爆発を見届けること。