2018年7月20日、富士フイルムが「レンズだけの新製品発表会」を開催しました。カメラ本体は、前日発表されたコンパクト機「XF10」が少し紹介されただけで、事実上無し。
富士フイルム FUJIFILM XF10
交換レンズのみなのにわざわざ発表会をしました。なぜ?それを考えると興味深いものが見えてきます。それは、本格的なプロ向けカメラ市場への参入表明です。
もともと富士フイルムのミラーレス一眼「X」シリーズはカメラ好きに向けての非常に趣味性が高いカメラでした。ボディや操作系はレトロ風味でしたし、レンズも単焦点が中心。一般向けやプロ向けよりは、ちょっとマニアックな人たちに向けた趣味のカメラだったのです。
でもXシリーズが成功をおさめ、カメラとしての性能が上がり、ミラーレス一眼という存在が市場に認知されるにつれ、さらに幅広いユーザーに向けて進化しはじめたのです。
それが2018年春に登場した「X-H1」。「X-H1」が目指したのはプロやハイアマチュアが現場で使えるカメラ、でした。たぶん。そして今回、本気でハイエンドカメラ市場に参入しますよ、という宣言のようなプロ向けのレンズを投入したのです。今回の発表は「我々はもっと上も狙いますよ宣言」といっていいでしょう。
80万円超のプロ向け望遠レンズ登場
ひとつめはプロ向けの(何しろ80万円もするのですから)望遠レンズです。「X-H1」は超高速AFや頑丈なボディ、連写などスポーツや動物といった、雨風に負けず動くものをしっかり撮ることができるカメラを狙っています。
そうなると必要なのは、レンズ。既に「XF 100-400mm」というズームレンズはありますが、さらにハイクオリティなものということで200mm F2。F2.8ではなくF2、大口径の望遠レンズです。
XシリーズはAPS-Cサイズのセンサーなので、35mm判換算では300mm。ハイエンドレンズの発表ということで、レンズ構成もしっかり解説されました。14群19枚のレンズで、軸上色収差をとるためのEDガラス2枚とスーパーEDガラス1枚をフロントセッションに採用しています。
絞りバネの後ろにあるバックセッションはセンサーサイズが小さい分レンズを小型化でき、その分高速で静かで高精度なAFを実現しました。AF合焦時間は0.217秒(CIPA規格による)です。
製品にはフォーカスリミッターやフォーカスプリセット機能を装備。瞬時に目的の場所にフォーカスを合わせることができます。
プロ向けのレンズなので過酷な現場にも対応できなければなりません。レンズには軽くて頑丈なマグネシウムを使い、17箇所にシーリング処理をほどこして、防塵防滴耐低温を実現しました。
そのレンズがこれです。
非常に大きく見えるのは、フードを付けているため。フードがないと太くて短いレンズって感じです。
鏡胴の色がオフホワイトなのは、直射日光を浴びたときの温度上昇を抑えるため。熱くて持てなくなったり、内部の温度が上がることで金属が膨張して精度が落ちるのを防ぎます。
また製品には1.4xのテレコンバーターも付属します。そうすると開放絞り値が1段落ちますが、280mmF2.8のレンズとして、より望遠撮影が可能になります。
さすがに少々重いレンズにはなりますが、カメラに付けて構えた姿もなかなかです。
富士フイルム フジノンレンズ XF200mmF2 R LM OIS WR
富士フイルムの大三元レンズを完成させる超広角ズーム
もう1本は超広角ズームレンズ。
カメラの世界では「大三元レンズ」という俗称があります。麻雀の役満から来ている言葉ですが、まあ、3本揃えれば完璧という、開放絞り値がF2.8のハイエンドのズームレンズ群の総称。超広角ズーム、標準ズーム、望遠ズームの3本を揃えればもう役満、ってなニュアンスですね。
富士フイルムのXシリーズには標準ズームレンズの「XF16-55mm F2.8」、望遠ズームレンズの「XF50-140mmF2.8」はありましたが、超広角ズームが欠けていました。
そこにハマる最後のピースが、今回発表された「XF8-16mmF2.8」です。12-24mmに相当する超広角ズームです。
富士フイルムでは「レッド・バッジ」シリーズと呼んでます(鏡胴に埋め込まれているバッジの色が赤い)。「8-16mm」は画角が121°。
リアセッションには収差を抑えるためのEDレンズやスーパーEDレンズが何枚も使われています。この構成を成し遂げられるのも、バックフォーカス(一番後ろのレンズと撮像素子面の間の距離)を短くできるミラーレス一眼ならでは。
そこそこコンパクトでありながら超広角で高画質なズームレンズを実現しています。レンズには「Nano-GI」コーティングを採用。
X−T2につけた写真を見てもコンパクトに収まっているのがわかります。
これで、ハイエンド一眼レフに欠かせない3本の基本となるレンズが揃ったわけです。
富士フイルム フジノンレンズ XF8-16mmF2.8 R LM WR
ちなみに、今回の2本のお値段はいくらかというと、「200mmF2」がテレコン同梱で838,500円、「XF8-16mm」が277,500円となっております。
2019年以降のレンズロードマップにも注目
今回はスポーツや自然といったタフな世界で撮影するための「200mmF2」の望遠レンズと、ハイエンドのF2.8通しズームレンズラインナップの完成というプロやハイアマチュア向けの製品がお披露目されたわけですが、最後に2019年以降のレンズロードマップに追加された3本のレンズの話も出たのでまとめておきましょう。
これ、普通のXシリーズユーザーこそ必見なのです。ひとつは「16mmF2.8の広角単焦点」。「コンパクト・プライム」という、手頃なサイズと価格で買いやすくて防塵防滴の単焦点レンズシリーズのひとつ。シリーズ内では最広角です。
もうひとつは、待望の常用ズームレンズ。実は多くのデジタル一眼メーカーは35mm判でいう「24-105mm」あるいは「24-120mm」に相当する広角から中望遠まで1本で撮れて、開放絞り値はF4というミドルクラスの常用ズームレンズをラインナップしています。ソニーの「24-105mmF4」は「α7III」のヒットに伴い、入手が難しいほどの人気となっています。
実際、このズーム域は1本で基本的な撮影をこなせるので、基本レンズとして非常に便利なのですね。でも富士フイルムにはありませんでした。
それがとうとう2019年に登場します。16-80mm(35mm判換算で24-120mm)でF4通しの「XF16-80F4 R OIS WR」です。
「モバイル・ズーム」と銘打たれたこのレンズは、比較的コンパクトで機動力がありますから常用に最適といえるでしょう。
個人的に大変楽しみにしております。この2本はモックアップも展示されてました。
そしてもう1本、こちらは2020年登場予定の「XF33mmF1」。33mm、つまり35mm判換算で50mm相当のF1.0のレンズです。F1.0ですよ、1.0。超大口径。しかもオートフォーカス。かなり挑戦的なレンズです。
こちらはモックアップもなく、開発表明って感じでしたが、登場が楽しみなレンズです。
自社のカメラに対してどんなレンズを優先してラインナップするかは、メーカーからユーザーへのメッセージにもなります。そういう意味で、こうしたレンズだけの発表会というのはありがたいもの。
特に今回は「EOS Kiss M」や「α7III」の登場、さらにはニコンやキヤノンがフルサイズのミラーレス一眼を投入しようとしている中で、いち早くミラーレス一眼に力を入れてきた富士フイルムも本気で行きますよと宣言した発表会だったといえるでしょう。
老舗のデジタル系フリーライター兼カメラマン。パソコン雑誌のライターだったが、今はカメラやスマホが中心、ときどき猫写真家になる。「iPhoneカメラ講座」「這いつくばって猫に近づけ」など連載中。近著は「東京古道探訪」。歴史散歩ガイドもやってます。