日本では2022年12月17日から発送が開始された、ValveのゲーミングUMPC『Steam Deck』。この間ライバルからは、以前ご紹介した『ASUS ROG Ally』など多数の新製品が続々と登場してきています。おそらくこうした波は今後も続いていくと思いますが、その扉を大きく開くきっかけとなったのが今回レビューする『Steam Deck』といっても過言ではありません。
Valveではこの『Steam Deck』のことを「オールインワン ポータブルPCゲーミング」といったネーミングで呼んでいますが、一般的にゲーミングUMPCと呼ばれるこれらのマシン、あまり耳にしたことのないという人のためにめちゃくちゃ簡単に説明してしまうと、PCゲームを携帯ゲーム機でも遊べるようにしたものととらえて問題いないでしょう。
eスポーツなどが注目され始めた2017年あたりから、ゲーミングPCの売上げも徐々に伸びてきました。特に日本の場合は海外とは状況が大きく異なり、ゲームを遊ぶのはPCというよりもコンシューマーゲーム機やスマートフォンが主流を占めています。しかし、その状況も変化しつつあり角川アスキー総合研究所の「ファミ通ゲーム白書2022」によると、2018年から2021年までの3年間で市場規模が2倍になったという報告もあります。
というわけで、日本での発売からすでに8ヵ月以上たった『Steam Deck』ですが、それでもあえて推したい独自性の高いマシンであるという地位は揺るぎない状況です。今回はそんな本機の魅力や特徴について、ご紹介していきたいと思います。
海外から10ヵ月遅れで発売されたのがむしろラッキーだった!?
実は海外では2022年2月25日に発売が開始されており、日本でリリースされたのはそれより約10ヵ月遅れだった『Steam Deck』。すぐに手に入れるのが難しいもどかしさもありましたが、逆にこの期間が設けられていたことによるメリットもいくつか生まれています。
今年の6月に発売が開始された『ASUS ROG Ally』の場合、リリース自体はほぼ世界共通のタイミングとなっていました。しかし、発売直後から本体の発熱によってmicroSDカードが使えなくなってしまうなど、様々なトラブルが浮き彫りになってきています。
こうした新型ハードの場合、どうしても初期トラブルは免れにくくなっています。『Steam Deck』も、リリース直後はいろいろな初期トラブルに見舞われていましたが、日本で発売されるまでの期間、様々な改良やアップデートなどを重ねていき、かなり安定した状態で入手できるようになっていました。
ちなみに日本でのリリースが開始されて以降も、内部パーツなど見えない部分の改良は続けられています。そのため、現在販売されているハードと、昨年12月に売られていたときのハードでは、内蔵SSDにアクセスするためのパーツが異なっているなど、細かい仕様変更が行われています。
Steam Deckの基本スペック
まずは、現在販売されている『Steam Deck』のスペックをチェックしてみましょう。用意されているモデルは全部で3機種あり、細かい違いはあるものの単純に内蔵しているSSDの容量が64GB、256GB、512GBと分かれています。512GBモデルのみ高級なものとなっているものの、いずれも専用のキャリングケースが付属しています。
また、最上位モデルの512GBのみ液晶ディスプレイが映り込みを抑える「プレミアム防眩エッチングガラス」が採用されています。心臓部となるAPUは、AMDと提携して開発された Zen2+RDNA2を搭載。液晶ディスプレイの解像度は1280×800px(アスペクト比16:10)となっており、ある程度最新のPCゲームは遊べるようなスペックになっています。
ここで一体どのモデルを選べばいいんだ?と迷われる方も多いと思いますが64GBの場合、通常で使用するには容量が少なすぎてかなり不便です。しかし、内蔵のSSDを大容量のものに換装することができる技術を持っているか(それほど高難易度ではないものの、ある程度の知識は必要)、大容量のmicroSDカードと併用して使うことになります。
つまり、64GBモデルはある程度自分でカスタマイズできる人ならば、コストパフォーマンスがいいマシンだといえます。
最上位モデルの512GBは、そのまま使っていてもとくに容量不足を感じることはありません。大量のゲームを入れるのは無理かもしれませんが、遊ぶゲームをいくつか絞ってインストールしておく分にはほぼ不満を感じることはありません。
512GBモデルに採用されているプレミアム防眩エッチングガラスに関しては、正直思ったほどの効果を感じることは出来ませんでした。また、どうしても液晶画面に触ったときに手垢が付くのが気になるため、手垢防止の保護フィルムを貼りたくなります。このときに光沢タイプのものを選んでしまうと、映り込みするようになるのでほぼ効果がなくなります。
ちなみに筆者は512GBを選び、その上から映り込みを抑える反射防止の保護フィルムを貼りましたが、特に問題なく使用できています。そのため、特に改造せずに普通に使いたいという人ならば、最低でも256GBモデル以上を選ぶことをオススメします。
Steam Deckのどこが素晴らしいのか?
多くのゲーミングUMPCが、Windows11を採用しています。これはWindowsのゲームを、通常のPCと同じように利用出来るというのが最大のメリットといえます。しかし、Windowsと携帯ゲーム機の相性はそれほどいいとはいえず、とくにゲームバッドでマウスのカーソルを操作しなければいけない場合は、かなりのストレスです。
一方、『Steam Deck』には、Arch Linuxをベースにしたオリジナルの『SteamOS』が採用されています。LinuxでPCのアプリを動かせるようにするためのプログラムに『Wine』がありますが、『Steam Deck』では最新のPCゲームを動かせるようにする『Proton』と呼ばれるプログラムを開発。これにより、OS自体はLinuxをベースにしたものでありながら、多くのPCゲームと互換性を保つことができるようにしています。
そもそもなぜWindowsではなく、LinuxをベースにしたオリジナルのOSが採用されたのでしょうか?これについては、独自のOSを採用することで、画面のリフレッシュレートや電力制御など、マシンの制御を行いゲームを快適に遊べるようにするための機能を盛り込むためでした。また、Windowsとは大きく異なる最大のメリットも生まれています。それが、OSを意識せずに使えるようになっているところです。
OSを意識させないSteamOSならではの特徴
WindowsがインストールされたゲーミングUMPCは、専用のランチャーが用意されているものもあるものの、ベースは通常のWindowsと変わりません。しかし、『Steam Deck』はいきなりホーム画面が表示されるだけではなく、同じValveが運営するPCプラットフォームのSteamとも完全に融合しており、ストアでソフトの購入から所有しているソフトの管理までメニューで切り替えることで簡単に行えます。
しかも、これらの操作をほぼOSを意識する必要なく扱うことができるため、むしろ普段PCに触れていないような初心者でも扱いやすくなっているのです。
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コンピュータホビー雑誌「ログイン」の編集者やドワンゴでモバイルサイトの企画・運営等を経て、2014年よりフリーで活動中。XRやPCなどのIT系やゲームをメインに、年間120本以上の取材をこなしています。